住居侵入罪
特定政党の宣伝チラシをマンションのポストに投函していたら、管理人から「警察に通報するぞ」と脅かされました。これって罪になるのですか。
選挙が近くなると、候補者や政党をアピールするチラシが配布され、説例と似た事件もでてきます。実際、東京立川市の自衛隊官舎で自衛隊のイラク反戦ビラを配布した事件について、最高裁は住居侵入罪に該り有罪と判断しました。また、東京都葛飾区でこれからマンションの共用部分に入り共産党のチラシを配布したという事件も、一審無罪しかし二審が有罪、現在最高裁で係争中です。
【住居侵入罪の成立要件】
刑法は、正当な理由がないのに人の住居に侵入した者に3年以下の懲役又は10万円以下の罰金を科しています。いわゆる住居侵入罪です。
「正当な理由がない」というのは、住居の管理権者の意思に反していることをいいます。立川の反戦チラシの事件では、関係者以外の立ち入りを禁じる表示があったことや、反戦ビラを配布する都度、被害届が出ていなどの事情を理由に、最高裁は「被告の立ち入りが管理権者の意思に反することは事実関係から明らかだ」と判断しました。
しかし、チラシ配布というのは表現行為で憲法21条の表現の自由として保障される基本的人権です。軽々しく犯罪と認定していいのでしょうか?しかも、最近警察などから狙い撃ちされているのは政治ビラで商業ビラは野放しのようです。こんな不均衡な取り扱いが許されていいのでしょうか?
【チラシ配布の憲法上の価値】
問われているのは、政治的主張を持つチラシを配布する自由と住民の平穏とどちらが大切にされるべきか、ということです。たしかに、見たくもないチラシをポストに無雑作に置かれていれば腹立たしいと感じてしまうこともあります。しかし、チラシ配布というのは誰もが気軽に利用できる表現手段です。
例えば、自民党などは力がありますから巨費を投じて大規模な広告ができます。しかし、少数野党や市民団体にそれはできません。足を使っての行動が命です。少数意見も市民に伝わるルートは確保されるべきです。多様な意見を闘わせてこそ民主主義がより発展すると考えるからです。こういう観点からすると、最高裁判決は、政治的表現の自由を軽んじるものといえます。
政治的チラシのように表現行為でも特に保障されるべきものは、行為態様によっては違法性がないとして無罪にするべきと考えます。
(2008年9月12日記)