Jack Land 相談室 上越エリア情報誌 ジャックランド

NEW痴漢冤罪事件

Q 女性が電車で「痴漢をされた」と言って隣にいた男性のネクタイをつかまえて警察に突き出したのに、なぜ無罪になってしまうのでしょうか。

【満員電車内の痴漢事件の問題点】
 満員電車内の痴漢事件の唯一最大の論点は、疑われた人間が本当の犯人なのかどうかということです。ギュウギュウ詰めの状態なので、被害者が犯人の腕或いはネクタイを捕まえたといっても人違いである可能性もありうるからです。
 被告人が否認して争われた場合、証拠となるものは余りありません。電車では身動きもとれず痴漢現場を目撃する人はいないことがほとんどです。また、痴漢は女性の恥部に直接触れるというもので極めて単純な手口のため客観的な証拠もないのです。
そのため、裁判所は、被害者の供述調書や法廷での証言などが「具体的」「迫真的」などとしてその信用性を肯定し、それを有罪の決め手と考えてきたのです。
 しかし、被害者はもともと「誰かに」触られて被害を訴えているのですから、その証言が迫真的であるのは当たり前です。また、捜査の初期から綿密に捜査機関と打合せをしているわけですから、その供述が「具体的」になるのも当たり前なのです。そのため、物的証拠もないままに被害者の供述だけを過度に信用するのは誤判の恐れがあるとの批判が従来からなされていたのです。

【最高裁判決の意義】
 最高裁は、「満員電車内の痴漢事件は物的証拠等の客観的証拠が得られにくく、被害者の供述が唯一の証拠である場合も多い上、被害者の思い込みその他により被害申告がされて犯人と特定された場合、その者が有効な防御を行うことが容易ではないという特質が認められることから、特に慎重な判断が求められる」と判断しました。
 今までの裁判例は、被害者の供述が信用できれば被告人がどのように弁解しても有罪認定をしてしまう傾向がありました。
しかし、最高裁判決が出た以上今後の裁判はこれまで通りというわけにはいきません。被告人にワイセツ事件などについての前科前歴や性癖もなく、被告人の弁解にも理由があると認められる場合には、被害者の供述にかなり高度の信用性が認められない限り有罪の認定をすることはできなくなるものと思われます。そういう意味では、最高裁は従来の供述頼みの裁判のあり方に「疑わしきは被告人の利益に」という観点から重要な一石を投じたものといえます(2009年5月12日記)。