Jack Land 相談室 上越エリア情報誌 ジャックランド

裁判員裁判

Q 初めて実施された裁判員裁判。問題は何もなかったのでしょうか。

【判決の事実認定】
 新聞などで報道された判決要旨によれば、被告人の被害者殺害に至る経緯は、①被告人と被害者とは隣同士であったところ、被害者の自宅前には常日頃植木やバイクが道路にはみ出し、通行の支障になっていたので被告人はたまに被害者に文句を言っていたことがあった、②犯行当日被告人が外出しようとしたところ被害者の自宅の庭先におかれていたペットボトルが倒れていたことについて文句を言ったところ、「被害者は何か言い返した」、③そこで被告人が自宅からナイフを持ち出して被害者の胸、背中などを刺した、というものでした。

【被告人の動機が不明確】
 しかし、この内容ではどうして被告人がナイフを持ち出そうとしたのか、つまり犯行の動機が何だったのかよくわかりません。というのも、ナイフを持ち出すというのは異常な行為です。被告人が一般人であれば、被害者の言動の中身に被告人がキレたとかの事情が必ずあるはずです。そのため「何か言い返した」という認定だけでは抽象的過ぎるのです。
 弁護人は、最終弁論で、被告人が被害者に文句を言った際、被害者が被告人に対して「生活保護を受けているくせに」「国のお世話になっている」などという辛辣(しんらつ)な言葉を浴びせたために被告人が激高し、言葉で言っても聞かない被害者に対しナイフで脅せばひるむだろうと思ってナイフを持ち出したとの主張を展開していたようです。

【粗雑な事実認定は判決として失格】
 弁護人のストーリーであれば一応納得できますが、判決はそのストーリーを認めずに冒頭のように被害者の言動を抽象的なままに認定したのです。したがって、判決は殺害に至る動機を詳細に認定しないという意味で粗雑だと考えざるを得ません。
粗雑になってしまった原因は、弁護人の立証の巧拙にあるのか、それとも裁判員が被害感情を優先した結果なのか、是非とも解明してほしいところです。後者であれば、裁判員裁判は廃止した方がいいでしょう。事実を正確に認定することこそが、判決に説得力を与えるのです。仮に事実認定が感情に流されてしまうのであれば、適正な量刑も選択できないし、被告人にも不満が残るだけでしょう(2009年8月12日記)。

【追記】
 これは、2009年に全国で初めて実施された裁判員裁判について感想を書いたものです。裁判員裁判が始まってからもう10年経過することになりますね。
裁判員裁判に対する現在の考えはこの頃と変わっていません。被告人が犯罪を認めて裁判の争点がもっぱら量刑に限られる場合には裁判員は不要です。私も一度だけ裁判員裁判を経験しました。量刑だけの裁判にあれだけの時間と経費とをかけるのはムダなのではないかと感じました(2019年3月10日記)。