公然わいせつ罪
Q 草彅さんは、罪を犯したのになぜ処分保留のまま釈放されたのですか。
4月23日「SMAP」メンバーの草彅剛さんが公然わいせつ容疑で逮捕されました。深夜の公園で泥酔し全裸の状態で騒いでいたというのです。結局、処分保留のまま釈放となったのですが、これは果たして軽い処分だったのでしょうか。
【「強制わいせつ」と「公然わいせつ」】
刑法には「強制わいせつ」と「公然わいせつ」と似たような罪がありますが、二つは全く罪質が異なります。「強制わいせつ」は「他人に」無理矢理キスをしたり陰部に触れたりするもので、他人の性的な自由を侵害する罪です。
他方「公然わいせつ」というのは、不特定多数の前で「自分の恥部」をさらす行為です。具体的な被害者は存在しないのです。刑法の教科書は、「公然わいせつ」について善良な性風俗を害するなどと説明していますが、はっきり言ってよくわかりません。 たしかに、他人の全裸など見たくもありませんが、それを見た人に具体的な被害があるのかどうかと言われるとよくわからないからです。刑法は、刑罰という制裁を課することによって国民の生活を保護することを目的にしています。そうであれば、直接に生命、身体、自由などの国民の具体的な生活利益を侵害しない行為は処罰しないでもいいのではないかという疑問がでてきます。
【「公然わいせつ」は危険犯でもない】
もちろん、刑法には酒気帯び運転罪のように具体的に生活利益が侵害されていない場合でも処罰するような規定があります。ただし、これは酒気帯び運転によって重大な結果が発生しては遅いので、結果発生の危険が生じている段階で処罰をしようとしたものです。こういう犯罪を危険犯といいますが、これも生活利益を保護するためのものであることにおいては通常の犯罪と異なるところはありません。
しかし、「公然わいせつ」は、それによって侵害を受ける生活利益が具体的にはなく、危険犯とも性質が異なります。結局、「公然わいせつ」というのは、性道徳に反した悪い人間を処罰する意味しかないのではないかと思います。その意味では実質的には軽犯罪だということです。
深夜の公園ですから、全裸の草彅さんを目撃する人もいなかったのではないかと考えると逮捕の必要性があったのかどうか疑問です。まして、薬物反応もないのに、公然わいせつの嫌疑だけで家宅捜索というのはやりすぎです。その意味で、処分保留の釈放というのは、至極当然の結論だと思います(2009年5月12日記)。