Jack Land 相談室 上越エリア情報誌 ジャックランド

裁判員裁判その後

裁判員裁判が実施されてから一年が経過しました。どのような問題点があるのでしょうか。

【事件の多くは量刑の判断のみ】
 もともと裁判員裁判が考えられたのは、市民の常識を裁判に反映させて冤罪・誤判を防止することにありました。
ところが、裁判員裁判で本年の3月末までに判決が出た事件のうち実に72%が自白事件でした。つまり、事件の多くは被告人の量刑のみを判断するために実施されたということになります。量刑判断に市民の感覚が生かされたと評価する報道もあります。しかし、裁判員裁判は、候補者の呼出し、選任などに多大な経費がかかります。この10ヶ月余りで候補者1万6600人が呼び出されています。量刑判断のためだけに裁判員裁判を実施する必要が本当にあるのかどうか疑問です。

【事件の滞留】
 最高裁の統計によると、本年3月末までに起訴された1662件のうち判決が言い渡されたのはわずか444人です。事件が長期化し滞留していることは明白です。新潟県でも今までに20件以上が起訴されていますが、判決が出たのは僅か3件のみです。
事件の長期化の原因は、公判前整理手続です。裁判員の負担を軽くするために審理すべき争点や証拠を絞る手続です。しかし、自白事件についてこの手続はほとんど必要ありません。必要がないにも関わらず裁判員の審理期日を一日でも少なくしたいと思うために無駄なことをしているわけです。

【「罪名落とし」は許されるのか】
 事件が無用に長期化したり、手間がかかるとなると、裁判員裁判をできる限り避けようということになります。この弊害が検察官の「罪名落とし」です。
 例えば、妻が殺意をもって夫の胸をめがけてナイフを突き刺したが未遂に終わったという事件があるとします。この場合客観的にも殺意が明確ですから、当然「殺人未遂」で検察は起訴するべきです。そうすると、裁判員裁判の対象になりますが、それを避けて「傷害」で起訴をするというのが「罪名落とし」の実例です。
 こんなことを検察がするはずがないと素人は思うかもしれません。しかし、実際あるのです。例えば、大分県警が、女性に乱暴して傷を負わせた男を被害女性の心情に配慮して強姦の容疑で逮捕・送検したということが報道されています。これも裁判員裁判を避けるための一例です。
 裁判員裁判が当初の理念から離れて勝手に一人歩きしてしまっているといるように思えてなりません(2010年6月12日記)。