Jack Land 相談室 上越エリア情報誌 ジャックランド

被疑者が犯人であることをどう立証する?

 舞鶴の女子高生殺人事件で、家宅捜索を受けていた男性が逮捕されました。どういう問題点があるのでしょうか。

【映像は有罪の決め手になるか】

 逮捕の決め手となった証拠は、遺体発見現場につながる道路沿いの防犯カメラで撮影されていた二人連れの人物の映像です。一人が女子高生、もう一人が今回逮捕された男性に似ているというのです。

 しかし、この証拠が有罪認定の決め手となるのかどうかは難しいところです。ビデオの男性が今回逮捕された被疑者と同一人物なのかどうか?仮にそうだとしても歩いていただけではないのか?警察は、昨年11月にその男性の家宅捜索をして約二千点もの物件を押収したといいます。しかし、男性が犯人であると推定できるような物的証拠は何も得られていないようです。

 刑事事件での証拠は、犯人の自白のように犯罪の立証に直接役立つ直接証拠と、直接的ではないものの犯人ではないかと疑わせる程度の証拠(これを間接証拠、状況証拠という)に分けられます。直接証拠がない場合には、捜査機関は状況証拠を積み重ねて、容疑者が犯人であることを裁判所に確信させる必要があります。しかし、本件ではビデオ以外にどの程度の間接証拠があるのか警察の記者会見からはまったくわかりません。今後捜査や公判が難航するのではないかと思います。

【なぜ逮捕を急いだのか】

 もう一つの疑問は、なぜ犯人であるとの確証が薄い時点で逮捕をする必要があったのかということです。専門家が指摘しているのは、状況証拠を積み重ねて有罪を認定する作業が市民の裁判員にできるかどうかは未知数であることから本件を裁判員裁判の対象にしたくなかったのではないか、というものです。

 裁判員裁判の対象は、本年5月21日以降に起訴された事件です。容疑者を逮捕した場合、遅くとも逮捕から23日以内に起訴するかどうかを決めなければなりません。そのため、裁判員裁判の対象からはずすためにはどうしても4月中に逮捕する必要があったというわけです。

 しかし、裁判員裁判というのは、国民の参加によって裁判に対する国民の信頼を確保するために設けられたものです。そうであれば、こういう困難な事件こそ裁判員裁判によってその審理を国民に直接触れさせる必要があります。検察の考えは本末転倒、それとも、裁判員制度の欠陥を認めているのでしょうか(2009年4月12日記)。

【追記】

 この事件は、その後1審の京都地裁が無期懲役の判決、ところが2審の大阪高裁は無罪判決、最高裁は2審判決を維持して、無罪が確定しました。事実認定が難しい事件であったことは間違いありません。なお、容疑者だった男性は、その後、知人女性を刺し辰罪で懲役16年の判決を受け、大阪医療刑務所で服役し、同所で病死したとのことです(2019年3月6日記)。