3月2日 内密出産のこと
「内密出産」が話題になっている。予期しない妊娠をした女性が、母子ともに危険な孤立出産に追い込まれるのを防ぎ、病院で安全に出産することを目的として周囲に知られずに子を出産することをいう。
熊本市の慈恵病院のケースは次のような経緯であった。
10代の女性が産婦人科の受診で妊娠を知った。パートナーにそれを告げると関係を断たれた。親は異性関係に厳しく出産の事実を知らせることができなかった。女性はインターネットで調べるうちに「赤ちゃんポスト」を運営していた熊本市の慈恵病院の相談窓口にたどりついた。女性は身元を明かさぬまま同病院で出産。その後も、身元は病院の相談室長にだけ告げてその他公にすることを拒んでいた(朝日新聞2021年2月24日付)。
このケースでは、新生児の出生届けをどうすればいいのかが問題になった。即ち、病院が母親の存在を知りながら、母親不在として出生届けを提出した場合、公正証書不実原本記載罪に問われるのではないかということが問題にされてたのである。
これは、戸籍法が棄児(捨て子)がいた場合に自治体の首長が名前や本籍を決め、赤ちゃん1人の戸籍を作成することを認めている(戸籍法57条2項)ことから、このケースも自治体の首長が戸籍を作成できる、ということで決着がついたようである。
望まれない環境の中でも子を産もうとする女性がいる。そして生をいただいた子の命と生活を守るために、法体制が整わない中でもそれを変えていこうとする人たちがいる。その動きが何とも眩しく頼もしい。