雪の街だより 高田在住の弁護士馬場秀幸のブログです

NEW6月5日 ヨーコさんの背中

2022.06.05

 今日は日曜日だ。二階でコーヒーをすすっていた。
 ところが、一階の玄関のドアを激しく叩く音が聞こえてきた。
「何だ?」
 もしかしてお客さんとの約束を忘れていたかもしれないと思って手帳をみるが、何もメモがない。
「ドンドンドン」
 それでもドアを叩く音がした。
 玄関に行ってみると、高齢の女性が玄関ドアの前に座り込んでいた。
 「どなたですか?」と声をかけた。
 「ヨーコだよ!」「あんたババかい?」と言ってドアを右手でつかんで中に入ろうとしてきた。あわててドアを閉めた。
 ヨーコと言われたが、顔をまじまじと見ても見覚えがない。「あんたいったいどちらのヨーコさん?」と聞いてみたが、回答がない。そんな問答をドア越しに何度か繰り返した。その後、相手も疲れてしまったのか、事務所から離れてどこかに行ってしまった。

 いったいあの女性は誰だったのだろう、私の事件で恨みにでも思って来られたのだろうか。それにしてもわからない。正体がわからなかったので不安になっていた。そうしたら、その30分後に電話がきた。別の女性の声で「どうも、私の母親が迷惑をかけたみたいで」と言ってきた。電話の女性は、数年前に母親と一緒に私の事務所で債務整理をした私の依頼人であった。ということはさっき来ていた女性は、その母親で私の過去の依頼人だったということになる。ただし、本名はヨーコさんではない。
 しかし、人相がまったく違う。ヨーコさんは穏やかな方であった。
「実は、最近になっておかしい行動が増えてお医者さんに診てもらったら認知症と診断されたんです。妄想があるみたいで、今日も「ババと打ち合わせがある」みたいなこと言って家から出て行ったんですよ」
 そういわれて、数年前の事件を思い出した。ヨーコさんと娘さん、近親者に先立たれたり、自宅も売却をして転居を余儀なくされたりして結構辛い体験をした。ヨーコさんは、そういう体験の中で精神的に疲れていったのかなあと考えた。娘さんも辛いだろうにと思いながらかける言葉も見つからなかった。
 ヨーコさんが誰だかわかってホッとしたが、今も厳しい生活をされているとわかり、胸が痛んだ。

馬場秀幸  カテゴリー:その他