雪の街だより 高田在住の弁護士馬場秀幸のブログです

4月26日 嘱託殺人

2022.04.26

 新潟市内の無職男性(54歳)が、昨年1月に盲腸がんを患う母(当時87歳)から「先に逝かせてほしい」と頼まれて、母親の胸を刃物で刺すなどして殺害、自らも自殺を図ったが死ねなかったという事件。これに対して、新潟地裁は、4月14日懲役3年執行猶予5年(求刑は懲役4年)の有罪判決を言い渡した(朝日新聞2022.4.15「母親を嘱託殺人 猶予付きの判決」)。
 嘱託殺人とは、殺してほしいと頼み込む人の意を受けて殺害をすること。法定刑は、6月以上7年以下の懲役又は禁固(刑法202条)。通常殺人の法定刑は死刑又は無期又は5年以の懲役(刑法199条)。嘱託殺人の法定刑が通常殺人に比較して軽いのは、被害者が殺されることにつき同意をしていることなどが理由とされている。
 嘱託殺人の場合、事件があった後には既に被害者とされる人は死亡している。本当に「殺害があったのかどうか」を死者に問うことはできず、被疑者或いは被告人の「殺害してほしいと言われた」という供述を状況証拠で検証する他ない。
 新聞記事によれば、母が盲腸ガンを患い、被告人が2018年冬ごろから母親の入浴や食事を介助していたという。後は想像する他ないが、検察の求刑などからすると、母親や被告人の精神的疲労も限界に達していたのかと思われる(検察の4年の求刑は、裁判官に対して執行猶予つけてもいいよ、というメッセージのようにも思える)。
 こういう悲劇をなくすために介護保険制度ができてきたのでは?介護保険制度ができて30年を超える。社会化されたはずの介護が、再び家庭という狭い殻に閉じ込められようとしている。一つ一つの事実を政治につなげていってほしい。

馬場秀幸  カテゴリー:仕事