雪の街だより 高田在住の弁護士馬場秀幸のブログです

5月30日 本多勝一『そして我が祖国・日本』

2022.05.30

 この前、内田樹さんのことを書いた。そうしたら、それを読んでくださったお客さんと「週刊金曜日」のことで盛り上がった。
 「週刊金曜日」は、朝日新聞にいた新聞記者本多勝一さんが立ち上げた週刊誌です。

 1984年でした。私は大学二年生。東京の大学に入ったものの、さてどういうことをしたらいいのかさっぱりわからない。無為に日々を送っていた。同じクラスの子が読書会に誘ってくれた。そこで読んだのが本多勝一の『中国の旅』。15年戦争での日本の中国への加害を描いたルポでした。それを読んで本多さんの本をもっと読みたいを思って読んだ2冊目が『そして我が祖国・日本』でした。『中国の旅』も衝撃的だったが、じぶんにじ~んと伝わってきたのは、『そして我が・・・』の方でした。

 当時の自分は、すべての面で東京のような都会が素晴らしく思われ、反面自分の育った田舎を見下し卑下していました。前年には、新潟県出身の田中角栄元首相が東京地裁で、収賄罪の罪で懲役4年の実刑判決。それにもかかわらず、その年の冬の総選挙では22万票という過去最高の得票を得て当選。東京でタクシーに乗り、新潟県人だということを告げると、運転手が顔をしかめる、そんな時代でした。

 『そして我が・・・』に収録された「田中角栄を圧勝させた側の心理と論理」は、どうして犯罪者である田中が22万票を得たかということの理由や背景を民衆の視点で描いたものでした。
 雪深い新潟では、昔、冬になれば男はみんな都会に出稼ぎに行っていた、それを公共工事で仕事を作り出し、出稼ぎに行かなくても済むようにさせたことが田中の最大の功績だった、じぶんたちの暮らしを楽にしてくれた「角さん」が刑事責任を追及されて困っている、自分たちの恩人「角さん」を今助けないんでどうするんだ?そういう気持ちが過去最高得票をつくりだした、と本多は書く。その一方で批判的な言葉も忘れていない。都会と地方との格差をつくり、出稼ぎをさせてきたのはほかならぬ自民党政治だった。田中のしていることはマッチポンプでもあることを住民はまだ見抜けていない。おおよそこんな論調だったと思うんです。

 田中角栄を代表として送り出す住民に対してあたかたかな感情を持ちつつも、その背景に深く切り込む冷静な視点は忘れない、そういう姿勢に凄く感動しました。モノゴトの見方を教えてもらったんだと思います。

馬場秀幸  カテゴリー:書籍・映画