雪の街だより 高田在住の弁護士馬場秀幸のブログです

6月1日 岡田尊司「母親を失うということ」(光文社)を読む

2021.06.01

 岡田尊司先生は精神科医。先生には人の心に関わる著作が多数あります。私は、過去に人格障害の放火犯の弁護人を務めたことがありました。その時、「人格障害」という病気がまったくわからず、とりあえず本屋で手にした本が、先生の「パーソナリティ障害」(PHP新書)でした。
 先生は、昨年の5月にお母様を亡くされました。84歳で病院に入院していたとはいうもののきっと回復するだろうと思っていたところに突然の死の知らせ。コロナ禍で病院に行くこともできず看取ることもできなかったことを悔やみます。
 「この年になっても、母親を失うということは、大地が抜けるような喪失感と動揺を引き起こす。」(19頁)。精神科医という科学的な視点と母を想う感情とが交錯しながら、お母さんとの思い出が語られていく。そして、「大地が抜けるような喪失感」の意味を探ります。先生はこう分析しています。「母親を失うということの恐ろしさの根源は、自分の人生の始まりからずっと愛着してきた存在からの応答を永久に失うことかもしれない。問いかければ応えてくれた存在が、もう何も反応を返してくれないということ。やりとりすることができないということ。その苦しさである。それは呼吸できなくなる苦しさにどこか似ている。母という存在が返してくれる言葉や微笑みを、子どもは呼吸しながら生きているに違いない。何の反応も、言葉も微笑みも返ってこないということは、いくら息を吸おうとしても、息が入ってこないような苦しさを催させる。」(187頁)。
 ホント、そうですよね。頼りにしてた人が永久にいなくなってしまうんだから、苦しくて切なくて息ができなくなっちゃう。立っていることもできなくなるほどに。でも、先生がこうやって悲しい体験を綴ってくれることでそれがまた読んだ人を癒してくれる。悲しいのは自分ばかりではないんだと。

 

馬場秀幸  カテゴリー:書籍・映画