雪の街だより 高田在住の弁護士馬場秀幸のブログです

芸術に対する公的助成の在り方ー芸術の評価は文化専門職に任せるべき

2019.10.14

 音楽,演劇,舞踊,映画,アニメーション,マンガ等の芸術文化は,人々に感動や生きる喜びをもたらして人生を豊かにするものであると同時に,社会全体を活性化する上で大きな力となる(文化庁のホームページより)。だから、国が教育や芸術文化の向上に努めることは当然である。
 ただし、予算を持つ国が特定の芸術に干渉したり或いは援助したりすることになれば、芸術活動への制約となる。お金は出すけれど公平性を保たせるためにはどうしたらいいのか。難しい問題だ。
 蟻川恒正日大教授は、文化庁が国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」に対し予定されていた補助金7800万円を全額不交付したことに対して「展示したいならば民間の施設で私費ですればよいという声が多く上がった。しかし、広く好感は得にくいが考えるきっかけを与えるような作品に、人々が接する機会を増やす手助けをするのが、表現の自由に対する公的助成の役割である。多くの国民に支持されない作品は公的助成に値しないとするのは短絡である」と批判する。
 では、表現の自由を保障しつつ公的助成を進めるにはどうしたらよいか。教授は次のように言う。「補助金事業の「基本方針」は政府が定めるが、「基本方針」の解釈は文化専門職にゆだねるべきと考える」。文化事業の大綱は政府に決めてもらうにしても、その細部は専門家にゆだねる。表現の自由と文化助成との合理的な調整といえる。
 こういう考えは、別に目新しいものではない。教科書検定についても同様なことが言われてきた。文部省は学習指導要領で大綱を定めるものの、その解釈は教科書執筆者や教師などの教育専門家の活動にゆだねるといったものだ(もちろん、現実の政治では学習指導要領が法的規範をもち、執筆者や教師の教育活動に対する重大な制約事由にはなっているけれど)。

 

馬場秀幸  カテゴリー:その他