雪の街だより 高田在住の弁護士馬場秀幸のブログです

10月31日 菅首相の学術会議推薦候補者の任命拒否について(その1)

2020.10.31

 2015年の安保法国会の時、3人の憲法学者が参考人質疑で安保法について批判的な見解を述べました。それがその後の論議に大きな影響を与えたことはまだ記憶にありますよね。
 学者がその学問的良心に基づいて意見を述べることは社会にとって有用なことであることは間違いありません。学者の研究やその意見発表の自由を保障すること、これが学問の自由を保障するということです(憲法23条)。
 ところで、今回の任命拒否は学問の自由とどう関係があるのかと疑問に思う方もいるでしょう。しかし、任命を拒否するという国家の消極的な評価は、学問の世界に萎縮的な効果を与えることになります。学問の自由は、研究や教授への直接的な干渉ではなく、こういう嫌がらせ的な間接的な干渉からも自由であることを保障していると考えます。
 日本学術会議は、理系から文系まで日本の全分野の科学者を代表する機関として戦後間もない1949年に発足しました。科学が戦争に動員された反省から、政府から独立して職務を行う「特別の機関」と規定されました。会員の選出方法は、設立当初は公選制でした。政府の関与は認められていなかったのです。1983年に学術会議の在り方が議論され、会員選出方法では公選制が廃止され、学術会議が候補者を推薦し、この推薦に基づいて内閣総理大臣が任命する方式に変更されました。これにより学術会議が変質するのではないかと議論になりましたが、このときの中曽根康弘内閣総理大臣は、「政府が行うのは形式的任命にすぎません。学問の自由は、独立はあくまで保障される」と答弁しました。
 以上の経緯からすれば、学術会議には学問の自由の保障の観点から高度の自主性が保障され、任命制となって以降もその自主性が保障されていたことは明らかです。したがって、内閣総理大臣の任命は、中曽根首相が言ったように形式的であり、それに裁量の余地はありません。
 したがって、菅首相の任命拒否は学術会議法、憲法23条に違反するものと考えます。

馬場秀幸  カテゴリー:その他