雪の街だより 高田在住の弁護士馬場秀幸のブログです

5月2日 任意と強制

2020.05.02

 被疑者に対する刑事の取り調べには任意によるものと強制捜査に拠るものがある。任意は非強制だから、イヤだったら拒否してもよい。少なくとも、ボクらはそう教えられてきた。
 ある日、ボクの依頼者が勤務先の金を横領した容疑で某警察署の刑事から任意で取り調べを受けていた。そもそも警察が捜査する前から勤務先には横領の事実を認めていた。だから逮捕する必要もないのだが、警察は逮捕状を請求していたようだった。
 ボクは、依頼者の家族が直接話をしたいと言っていたので、一旦依頼者を警察から連れて帰ろうと思って警察に出向いた。その時点では逮捕状は出ていなかった。当然任意捜査だから連れて帰る自由があると思ったのが、それがまた困難を究めた。2階の刑事課に出向いて依頼者には会えた。依頼者とともに帰ろうとしたが、次々に行く手を刑事や警察の職員に阻まれた。玄関を出て自動車に乗り込んでも多数の警察官に取り囲まれた。
 彼らは決して私の体をつかんで妨害しようとはしない。それが違法なことはわかっているから。それでも、手前で私とは距離を保ちながらも遮ろうとする。振り切って帰ってきたが、気持ちのいいものではなかった。任意というが、限りなく強制に近いではないか?そう思った。
 ご承知の通り、自白調書は任意だから信用性が高いとされている。税務署の調査で修正申告に応じてしまった場合、後日撤回しようとしても、任意で修正したことを理由に撤回はまず認められない。原発事故の損害賠償だってそうでしょう。自発的な避難には損害額が少ないはずだ(これも任意によるものだから)。私の体験のように「任意」と言っても本当は限りなく強制に近いことを権力側は強いてきている。それなのに、形式的にでも承諾してしまったりすると、おそろしく不利益な取り扱いを受ける。
 今回のパチンコの業者の場合も同じことを懸念する。自粛要請に応じても政府はどれだけ補償を認めてくれるのだろうか。それが明らかでない以上、パチンコ事業者の懸念も理解できる。

馬場秀幸  カテゴリー:その他