雪の街だより 高田在住の弁護士馬場秀幸のブログです

3月10日 居眠り運転による自損事故のこと

2022.03.10

 それは、弁護士2年目に担当した事件だった。
 新潟市内の青年労働者が、高収入を謳っていた求人広告につられて入社したトラック運送会社、実は労働条件が劣悪だった。ある日、新潟の工場でエアコン100台を積み大阪まで24時間かけてトラックを走らせ、荷下ろししたたら、今度は秋田まで行ってくれと言う。それで休む間もなく秋田へ。一睡しもしていない。大阪を出発してほぼ1日経った頃、秋田県内の道路で居眠り運転で道路脇の電柱にトラックを衝突させてトラックを損傷させてしまった。会社からトラックの修理代(500万円)を請求されて訴訟になった。
 判決は、会社の請求額を2割程度(認容額は100万円)に制限した。居眠り運転が劣悪な業務命令の下でなされことをそれなりに評価してくれたものではあったものの、自分としては請求額ゼロでもいい事案ではなかったかと思っているおよそ2日間近くほぼ睡眠せずに働くことなんて無理だろう。判決は、青年が休息をとることもできたなどと認定していた。しかし、休憩をどの程度の時間とればいいとかいう明確な規定はなかった。逆に就業規則には、延着した場合などには罰金を徴収するという規定があった。こんな状況でまだ入社した間もない青年労働者が、十分な休息を取ることなんて事実上期待できなかっただろう。しかも、まだ若い労働者が100万円を一括で支払えることなんてできない。控訴はしなかったが、力至らず、青年労働者には申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 このときに、改善基準告示の規定を利用しながら、会社の業務命令が常軌を逸したものであることを主張した。だから、改善基準告示の見直しと言われると、この事件を思い出す。日本の労働者は、特に、田舎の労働者は、経営側に従順である。多少無理な命令でも、会社のために尽くそうとする。だから、労働条件は、公がしっかり規制の網をかけることが必要だ。

馬場秀幸  カテゴリー:仕事